Pride of Wacom - ワコムの矜持

プロクリエイターの創造性を引き出す:
Wacom Pro Pen 3に込めるワコムの誇り

「究極の描き味」を目指したフラッグシップペン

プロフェッショナルなクリエイターの脳内を駆け巡る一瞬のひらめき。誰も見たことのない世界を形にする、輝きに満ちた創造性。わたしたちを魅了するすべての作品は、わずか数ミリのペン先がディスプレイに触れる瞬間に、この世界へと姿を現す。ペンとタブレットを通じてデジタルクリエイターを支えるワコムが追求するのは、創作を加速させる「究極の描き味」。その実現を大きく手繰り寄せるのがWacom Pro Pen 3だ。ワコムのフラッグシップペンは、高精度な筆圧感知と傾き検出機能を搭載し、力強いブラシ描画や軽い直線の描画まで、思いのままに描画できるのが特徴。作業スタイルに合わせてパーツを入れ替えられ、グリップの太さやサイドスイッチの数、ペンの重心まで自由にカスタマイズが可能。ペン先が細く見やすくなった新しいペンデザインは、より自然な描き心地をクリエイターにもたらす。

芯の材質にこだわり、筆圧のロスを最小限に

Wacom Pro Pen 3の発売までには、初期検討段階から数えると実に4年以上の時間が費やされた。「このペンの開発は、ワコムが世に送り出すべき次世代デジタルペンのあり方を探るプロジェクトとしてスタートしたものです」と語るのは、技術的なリサーチや初期段階の構想設計を担ったメカニカルエンジニア の前田正之。「ユーザーに多様な選択肢を与えられるペンを届ける」という基本的なコンセプトが練られ、アイデア が詰められた。加えて、企画を担当したETC(部門横断的に集まった有志から構成されるタスクフォース。日常業務で培った専門領域の知識と経験を集積し、特定の課題解決を図ろうとする時限組織)から「カスタマイズ」という発想も追加された。 このペンの特徴は、ペン先を細く、芯を長くすることで実現した「視野の広さ」と、重さや太さのカスタマイズに対応できる「ペン軸の細さ」。前田が個人的にこだわったのは、ディスプレイに対してペンを斜めにして描いたときの「筆圧のロス」を最小限に留めるということ。物理法則に従い、ディスプレイとペンの角度が小さくなるほど筆圧としての力は逃げやすくなる。従来製品ではそのロス削減について設計上の限界があったが、Wacom Pro Pen 3ではこの課題をさらに追求。芯の材質には釣竿などに用いられるカーボンを採用した。

「力が逃げてしまうと描きたい線が描けません。Wacom Pro Pen 3では技術的なブレイクスルーを加えて、極限までロスを少なくすることにかなりこだわりました。カーボンは簡単にはたわむことがない。そのため、ユーザーが加えた力がペン先からディスプレイへとしっかり伝わります。その分、コストも高いので、上司ともかなりぶつかりましたね(笑)」

基盤面積3割減を実現した新型IC

IC*評価や電気回路設計などペン性能に直接関わる部分を担当した 鈴木崇志は、主に筆圧特性の開発を担った。Wacom Pro Pen 3の開発では、初期検討の段階から「一つの解で万人を満足させることはできないだろう」という確信めいた考えがチームメンバーの間で共有されていたと言う。太さ、筆圧、重さ。クリエイターによってペンの好みは千差万別。一方で、クリエイターが100人いれば、そのうちの99人が求めるであろう共通の嗜好も存在する。例えば、軽い荷重で描き始められること、筆圧特性のバラつきが少ないこと、芯のガタつきが抑えられていること、ペンによる個体差が少ないことなどが挙げられる。確実に押さえるべきポイントを徹底的に洗い出し、ペンとしての基礎能力を高めていった。加えて、このペンの実現を大きく後押ししたひとつの要因に、新しいICの開発があった。

「新型ペンICでは、新機能の追加や基本性能の向上だけでなく、ひとつ前の世代のモデルであるWacom Pro Pen 2に採用したものと比べて、部品幅を1/3に、基板の面積比ではおよそ3割減という小型化に成功しました。 新型IC自体はWacom Pro Pen 3の開発プロジェクトが始まる以前から進められていたもので、未来を見越した技術開発が活かされたという形ですね。以前のICでは大きすぎるため、そのままでは今回の細さの実現は困難でした。 新型ICの存在は、このペンの実現に少なからず貢献していますね 」

*IC:集積回路

難題を乗り越えた「技術者のプライド」

企画側の要望を受けて現実的に形にする部分、いわゆる詳細な機構設計を担当した 尾形衛は、前田からバトンを受け取ったときを振り返ると、「難易度が高く、絶望しかなかった(笑)」と言う。デジタルペンである以上、必要なパーツを、構造的にも、形状的にも、さらに言えばコスト的にも、限られた条件に収めなくてはならない。その上で、「部品の組み替え」という特別なギミックを盛り込んだ新しいコンセプトのペンであるため、組み込む部品は全て初めて扱うものとなり、その点数も従来品よりもずっと増加した。この難題は「技術者としてのプライドが刺激されるものだった」と尾形は振り返る。

「『最大限の努力を重ねれば何とか実現できる』というレベルの要望をいただいたので、断ることはできませんよね。多岐にわたるチームメンバーの要望を受け止めて、『このペン一本で解決してやろう』という思いで臨み、本当に実現できたことには喜びを感じています。これまで全く経験したことのない技術や機構への挑戦こそが、技術者にとって最高のモチベーションになります。Wacom Pro Pen 3は『ユーザーに寄り添うペン』なので、作っていて楽しかったですね」

「使い手を選ぶペン」という望外の賛辞

Wacom Pro Pen 3が目指したのは、遍(あまね)く誰もが使いやすいユニバーサルデザインではなく、プロクリエイターに最高の体験を届ける唯一無二のデジタルペン。すべての試みはユーザーに最高のペン体験を届けるためであり、ワコムの妥協のない姿勢の現れと言えるだろう。「このペンにはプロフェッショナルなクリエイターだからこそ気が付くようなポイントが随所に盛り込まれています。あるクリエイターからは『これは使い手を選ぶペンだね』というお声をいただき、この時は密かに嬉しかった(前田)」など、実際に手にしたクリエイターからの評価は想像した以上に高いものがあった。「Wacom Pro Pen 3は現時点で我々の考える最高のペンであり、一つの解です 。良い点も、悪い点も含めて、多くのユーザー からの声を集めて次の開発に活かしていきたい(鈴木)」と、その視線はすでに未来に向けられている。

すべてはプロクリエイターのために:技術者はデジタルペンの夢を見る

これから先、ワコムのペン開発はどこへ向かって進んでいくのだろうか。 「堅牢性を担保しつつ、ペンの基本部分を今よりさらに細く、今よりさらにシャープにしたいですね。可能な限り細くできれば、クリエイターが自分の好みに沿って太くすることは簡単ですから。ペンの場合、『小は大を兼ねる』とも言えます。そこにチャレンジしていきたい。余分な要素をさらに削ぎ落とすことで、『いつでも持っていたいと思えるペン』を作っていきたいですね(前田)」

「極限までユーザーに寄り添うことを突き詰めたいですね。ユーザーが本当に求めるものとは何なのか。ユーザーの身体の一部になっているような感覚のペンとはどんなものなのか。それを追求するのが楽しくて仕方ない。自分たちでは想像もつかないような使い方をしてもらって、たくさんのユーザーの声を聞けたら嬉しいです(尾形)」

「絵を描きたいと思うと、これまではアナログ画材から入ることが多かったため、『アナログ画材に近づけること』が技術者としてひとつの究極的な目標になっていました。一方、これからは小学生からスマートフォンに親しんでいるデジタルネイティブが活躍する時代。絵を描く入り口もデジタルになることも多いでしょう。アナログ画材に近づけることだけがゴールではない。『アナログ画材に近づけること』と『デジタル画材だからできること』、その両方考えていきたいですよね(鈴木)」

三者三様に技術者としての夢を語る言葉からは、「プロクリエイターに寄り添うペンを送り届けたい」という実直な想いが伝わってくる。

前田は、「自分たちで申し上げるのも烏滸(おこ)がましいですが、正直なところ、このWacom Pro Pen3はかなりのペンに仕上がっていると自負しています。もっと多くのクリエイターに使って欲しかったのですが、これまではハイエンドモデルであるWacom Cintiq Pro 27のみの対応だったため、実にもったいないと感じていました。今回、Wacom Movink 13が対応したことで、このペンが生み出す驚きの体験を、より幅広い方たちに届けられます。楽しみが膨らみますね」と語る。ワコムとして初めて有機ELディスプレイを採用した有機ELペンタブレット Wacom Movink 13の登場は、技術者の誇りが詰め込まれたWacom Pro Pen 3が届ける最高のペン体験の裾野をこれまで以上に広げていくことだろう。

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