「人間は、その起源以来、本当に進化しているのだろうか?」
「ワコムの道具は、本当に人間の創造性に寄与していると言えるのだろうか?」
2022年11月、この二つの問いかけとともに開幕したコネクテッド・インク2022。コロナ禍における制限緩和の動きもあり、久々の対面がかなったメンバーも多かった今回は、2週間をかけて、東京、ソウル、上海、デュッセルドルフ、ポートランドの各地で開催されました。ここでは、コネクテッド・インク2022・東京から、いくつかのセッションを紹介し、この大きな問いを振り返ります。
※コネクテッド・インクとは、2016年よりワコムが主催する、アート、人間表現、学び、そしてそれらを支えるテクノロジーの新しい方向性を模索するイベントです。2020年より、「創造的混沌(クリエイティブ・カオス)」をテーマに、毎年新たな問いを掲げ、開催しています。
Yuify~クリエイターの創作の証や作品のストーリーを残し伝える~
アーティストや作品に、固有の創作の証・軌跡・ストーリーを記録できる「Wacom Yuify」。想いを込めて創り出される作品に、唯一無二の新たな価値を付与できないかと開発された技術です。絵に直接IDやマイクロマークを埋め込むことで、確かな創作の証を残し、アーティストや作品の権利を守ります。技術の進化とともに語られたのは、「人間が作ったものに宿る温もりを残していきたい」という思い。大きな二つの問いをチーム自らの問いへと置き換えて語られたセッションのひとつでした。
テクノロジーの力で家族の絆は進化するのだろうか?
デジタルインクで日常を記録するプロダクト「柱の記憶」の開発を契機に、共創を続けるmui Labとワコム。コネクテッド・インク2022では、スマートホーム「muihaus.」を初公開しました。コンセプトは、時を超えて家族の絆を深める家。デジタルインクで柱に刻まれた家族の言葉が蓄積され、誕生日などの記念日と紐づいて、家族の記憶を家が共有するという仕組みです。ここでは、精度の向上と同時に、技術に余白を持たせることの大切さが語られました。その余白は、使い手の自由や創造性を刺激し、人間とテクノロジーとの新たな向き合い方の発見につながるのかもしれません。
人間は本当に進化したのか?
音楽家、クリエイター、思想家、脳科学者、AI技術者と、ユニークなスピーカーを招き、主題の問いと向き合ったこのセッションでは、AIと人間の違いや創作することについて語られました。人間にはできない速さで学習を可能にするAIですが、創作に関しては、まだできないことが多いといいます。脳波の研究では、創作時の人間の脳に、リラックス時の波長であるα波が出現していることがわかりました。三大欲求の一つである睡眠を削ってでも描きたいという、没入の瞬間がクリエイターにはあるといいます。人間は本当に進化したのか?疑問は深まり、問いは続くまま、素粒子コンピューター内に構築された理想世界を演劇と音楽で表現した最後のセッション「弦楽四重奏と演劇による生命の幻灯 『ネオイーハトーヴ』」へと続きます。
ただここで起こることがすべて
二つの力強い問いかけから立ち上がったコネクテッド・インク2022の特別な世界には、「優しい結界」が張られているのだと代表取締役兼CEO の井出は言います。そこでは、感情も領域も属性も、世界や人間の不思議でさえも、あらゆるものが受け入れられるのです。
私たちは一歩でも前へ進んでいるのでしょうか?
何かの役に立っているのでしょうか?
コネクテッド・インクには、正解も不正解も、成功も失敗もありません。それは、「ただここで起こることがすべて」という井出の言葉に集約されているのだと思います。
次回のコネクテッド・インク2023では、「森に帰る」というテーマから、私たちの根源的な価値や大切にしてきたものを探究します。
※アーティスト小林覚氏によるライブドローイング作品「また会う、きっと会う。その森の中で。」
サステナビリティに関連した当社の規範、
方針、体制等